特許の拒絶理由通知と対応策の種類や方法

特許出願後に届く拒絶理由通知は、権利取得への重要なステップです。新規性や進歩性の欠如など様々な理由で通知されますが、適切な対応で特許取得の可能性は大きく変わります。あなたの発明を守るためには、拒絶理由通知にどう対応すべきでしょうか?

特許の拒絶理由通知とは

特許の拒絶理由通知の基本
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定義

特許庁が出願内容を審査し、特許要件を満たしていないと判断した場合に送られる公式文書

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タイミング

出願審査請求から約1年〜1年半後に通知されることが多い

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目的

単なる拒絶ではなく、出願人に修正の機会を提供するためのもの

特許の拒絶理由通知とは、特許庁が特許出願を審査した結果、特許法の要件を満たしていないと判断した場合に出願人に送付される公式文書です。この通知は、特許庁が単に出願を拒絶するためのものではなく、出願人に対して問題点を指摘し、修正の機会を提供する重要な役割を果たしています。

 

特許出願をしてから審査結果が通知されるまでには、一定の時間がかかります。通常、出願審査請求をしてから約1年〜1年半が経過してから、審査の結果が通知されます。統計的には、95%以上の特許出願に対して拒絶理由通知が発行されるため、これは特許取得プロセスにおいて一般的なステップと言えるでしょう。

 

拒絶理由通知書には、拒絶の法的根拠や具体的な問題点が詳細に記載されており、出願人がその趣旨を明確に理解できるように具体的に記述されています。この通知書の内容は、特許庁における手続きだけでなく、将来的に特許発明の技術的範囲を確定する際にも重要な資料となります。

 

特許の拒絶理由通知の種類と違い

特許の拒絶理由通知には主に2種類あります:「最初の拒絶理由通知」と「最後の拒絶理由通知」です。

 

最初の拒絶理由通知は、特許出願に対する最初の審査結果として送付されるものです。この通知書には特に「最初」という表記はなく、「最後」と明記されていない拒絶理由通知は全て最初の拒絶理由通知として扱われます。

 

最後の拒絶理由通知は、最初の拒絶理由通知に対する応答時の補正によって新たに通知が必要になった拒絶理由のみを通知するものです。この通知書は以下の特徴で識別できます:

  • 文書の冒頭に「<<<< 最後 >>>>」という表記がある
  • 文書の最後に「<最後の拒絶理由通知とする理由> この拒絶理由通知は、最初の拒絶理由通知に対する応答時の補正によって通知することが必要になった拒絶理由のみを通知するものである。」という説明がある

この2種類の通知の最大の違いは、それに対する補正の自由度にあります。最初の拒絶理由通知に対しては比較的自由に補正を行うことができますが、最後の拒絶理由通知に対する補正は制限されます。

 

特許の拒絶理由通知が届くタイミング

特許の拒絶理由通知が届くタイミングは、特許出願のプロセスにおける重要なマイルストーンです。一般的な流れは以下のとおりです:

  1. 特許出願の提出: 特許庁に発明の内容を記載した書類を提出します。

     

  2. 出願審査請求: 出願から3年以内に審査請求を行います。審査請求をしないと、その出願は取り下げられたものとみなされます。

     

  3. 審査開始までの待機期間: 審査請求から実際の審査開始までは平均10ヶ月程度かかります。

     

  4. 審査と拒絶理由通知: 審査の結果、特許要件を満たしていないと判断された場合、拒絶理由通知が送付されます。これは通常、審査請求から約1年〜1年半後になります。

     

  5. 応答期間: 拒絶理由通知を受け取った日から60日以内に意見書・手続補正書を提出する必要があります。ただし、所定の手続きにより応答期間を延長することも可能です。

     

特許庁の審査状況や出願分野によって多少のばらつきはありますが、この一連のプロセスを理解しておくことで、特許取得までの時間的見通しを立てることができます。

 

特許の拒絶理由通知の主な理由と内容

特許の拒絶理由通知で指摘される主な理由には、以下のようなものがあります:
1. 新規性の欠如(特許法第29条第1項)
出願された発明と同じものが、出願前に文献やインターネットなどで公開されていた場合に通知されます。これは発明の「新しさ」が認められないことを意味します。

 

2. 進歩性の欠如(特許法第29条第2項)
出願された発明が、既知の技術を通常の範囲で変更したものや、他の既知技術と組み合わせたものと考えられる場合に通知されます。これは発明の「創造性」が不十分であることを意味します。

 

3. 先願(特許法第39条)
出願された発明が、同じ出願人または他の出願人による先の出願や同日の出願に含まれる発明と同一である場合に通知されます。

 

4. 実施可能要件(特許法第36条第4項第1号)
明細書の発明の詳細な説明が、請求項に記載した発明をどのように実施するかが分かるように記載されていない場合に通知されます。

 

5. サポート要件(特許法第36条第6項第1号)
請求項に記載した発明が、発明の詳細な説明に発明として記載されたものと実質的に対応していない場合に通知されます。

 

6. 明確性要件(特許法第36条第6項第2号)
請求項の記載に曖昧な表現や技術的な不備があり、発明を明確に把握できない場合に通知されます。

 

7. 発明該当性(特許法第29条第1項柱書)
請求項に記載した発明が、自然法則自体や単なる発見、自然法則を利用していないもの、技術的思想でないものなど、特許法で保護される「発明」に該当しない場合に通知されます。

 

8. 新規事項の追加(特許法第17条の2第3項)
補正された事項が、出願時の明細書等に記載した内容の範囲内にない場合に通知されます。

 

9. 発明の単一性(特許法第37条)
技術的に関連性の低い複数の発明が一つの出願に含まれている場合に通知されます。

 

これらの拒絶理由は、特許庁のウェブサイトで詳細な審査基準とともに公開されています。拒絶理由通知を受け取った際には、該当する拒絶理由の詳細を理解し、適切な対応策を検討することが重要です。

 

特許の拒絶理由通知への効果的な対応方法

拒絶理由通知を受け取った場合、60日以内に適切な対応を取る必要があります。効果的な対応方法には以下のようなものがあります:
1. 意見書の提出
意見書は、拒絶理由に対する反論や説明を記載する書類です。以下のような内容を含めることが効果的です:

  • 拒絶理由で引用された文献(引用文献)と出願発明との相違点の説明
  • 出願発明が引用文献と比較して持つ優れた効果の説明
  • 引用文献から出願発明を思いつくことが容易ではない理由の説明

2. 手続補正書の提出
手続補正書を提出して、請求項の内容(特許権を受けようとする発明の範囲)を変更することができます:

  • 請求項の範囲を減縮して、引用文献との差別化を図る
  • 独立請求項を従属請求項に限定する
  • 明確性に問題がある場合は、請求項の記載を明確にする
  • 拒絶理由の対象となっている請求項を削除する

3. 面接審査の活用
審査官との面接を申し込み、直接対話することで、拒絶理由の本質を理解し、効果的な対応策を見出すことができます。面接では以下のことが可能です:

  • 拒絶理由の詳細な説明を受ける
  • 補正案について事前に審査官の意見を聞く
  • 技術内容について詳細に説明する機会を得る

4. 分割出願の検討
拒絶理由通知を受けた際、一部の請求項のみが拒絶理由の対象となっている場合は、分割出願を検討することも有効です:

  • 拒絶理由の対象となっていない請求項で早期に権利化を図る
  • 拒絶理由の対象となった請求項は分割出願として継続審査を受ける
  • 分割出願は、拒絶理由通知から60日以内に行うことができる

5. 応答期間の延長
60日の応答期間内に十分な対応ができない場合は、所定の手続きにより応答期間を延長することも可能です。ただし、延長申請には追加費用がかかることに注意が必要です。

 

効果的な対応のためには、特許の専門家(弁理士など)に相談することをお勧めします。専門家のアドバイスを受けることで、拒絶理由を適切に解消し、特許取得の可能性を高めることができます。

 

特許の拒絶理由通知後の審査フローと注意点

拒絶理由通知に対して意見書・手続補正書を提出した後、特許庁では再度審査が行われます。この審査フローと注意すべきポイントについて解説します。

 

審査フローの概要

  1. 再審査: 意見書・手続補正書を提出すると、審査官は提出された書類を検討し、拒絶理由が解消されたかどうかを判断します。

     

  2. 審査結果の通知: 再審査の結果は、早ければ提出から2〜3ヶ月程度で通知されます。結果は以下のいずれかになります:
    • 特許査定:拒絶理由が全て解消され、特許権の付与が決定
    • 拒絶理由通知(新たな拒絶理由または最後の拒絶理由):まだ解消されていない問題がある
    • 拒絶査定:拒絶理由が解消されず、特許権の付与が拒絶される
  3. さらなる対応: 新たな拒絶理由通知を受けた場合は、再度意見書・手続補正書を提出します。拒絶査定を受けた場合は、拒絶査定不服審判を請求することができます。

     

注意すべきポイント

  1. 最後の拒絶理由通知への対応制限:

    最後の拒絶理由通知に対する補正は、以下のように制限されます:

    • 請求項の削除
    • 特許請求の範囲の減縮(限定的な変更のみ)
    • 誤記の訂正
    • 明瞭でない記載の釈明

    これらの制限を超える補正を行いたい場合は、「補正の却下の決定」を受けるリスクがあります。

     

  2. 分割出願のタイミング:

    分割出願は以下のタイミングで行うことができます:

    • 特許査定の謄本の送達から30日以内
    • 拒絶理由通知に対する応答期間内
    • 拒絶査定の謄本の送達から3ヶ月以内(審判請求と同時)

    戦略的に適切なタイミングで分割出願を行うことが重要です。

     

  3. 拒絶査定後の対応:

    拒絶査定を受けた場合、3ヶ月以内に拒絶査定不服審判を請求することができます。審判請求と同時に補正書を提出することも可能です。

     

  4. 審査の長期化への対策:

    複数回の拒絶理由通知により審査が長期化する場合は、以下の対策を検討しましょう:

    • 面接審査を活用して審査官との認識のずれを解消する
    • 早期審査・スーパー早期審査制度の利用を検討する
    • 必要に応じて分割出願戦略を見直す

特許の拒絶理由通知への対応は、特許取得プロセスにおける重要なステップです。適切な対応を行うことで、特許取得の可能性を高めることができます。特に複雑なケースでは、専門家のサポートを受けることをお勧めします。

 

特許庁の審査基準に関する詳細情報はこちらで確認できます

特許の拒絶理由通知と人工知能活用の可能性

近年、特許実務においても人工知能(AI)技術の活用が進んでいます。特許の拒絶理由通知への対応においても、AI技術を活用することで効率化や精度向上が期待されています。

 

AI技術の活用シーン

  1. 先行技術調査の効率化
    • AIによる大量の特許文献の高速分析
    • 類似技術の自動抽出と関連度のスコアリング
    • 非特許文献(学術論文など)も含めた包括的な調査
  2. 拒絶理由予測
    • 出願内容から考えられる拒絶理由を事前に予測
    • 過去の審査傾向を学習したAIによる審査結果シミュレーション
    • 拒絶理由を回避するための出願戦略の提案
  3. 対応書類作成支援
    • 意見書・補正書のドラフト自動生成
    • 類似案件の対応事例からの学習に基づく効果的な反論ポイントの提案
    • 言語解析技術による明確で説得力のある文書作成
  4. 特許戦略の最適化
    • 出願ポートフォリオ全体を考慮した権利化戦略の提案
    • 競合他社の特許動向分析に基づく差別化ポイ