特許出願は発明を保護するための重要なステップですが、出願後の審査プロセスを理解することも同様に重要です。特許庁における審査は、発明が特許として認められるかどうかを決定する重要な過程です。この記事では、特許庁における審査の流れや種類、注意点などを詳しく解説します。
特許庁における審査は大きく分けて「方式審査」と「実体審査」の2種類があります。
方式審査は、特許出願が正しい形式で行われているかを確認する最初の審査ステップです。特許庁の方式審査室に所属する約60名の方式審査専門官が担当しています。ここでは、出願書類に不備がないか、法令に照らして1件1件丁寧に確認されます。書類の記載不備や手数料の未納などがあれば、出願人に補正や納付を求める手続補正指令書が発行されます。
一方、実体審査は発明の内容そのものを審査するプロセスです。発明が新規性や進歩性などの特許要件を満たしているかどうかを特許審査官が判断します。この審査は、出願人が審査請求を行った後に開始されます。
両方の審査をクリアしてはじめて、特許として登録されるチャンスが生まれるのです。
特許出願をしただけでは審査は始まりません。出願後、審査を受けるためには別途「審査請求」という手続きが必要です。これは非常に重要なポイントです。
審査請求は出願から3年以内に行う必要があります。この期限を過ぎると、その特許出願は取り下げたものとみなされてしまいます。つまり、せっかく出願しても審査請求をしなければ、特許を取得するチャンスを失ってしまうのです。
審査請求には所定の手数料がかかります。審査請求をすると、出願は審査の順番待ちに入ります。2020年のデータによれば、審査請求から審査官からの最初の通知(主に拒絶理由通知)が届くまでの平均期間は約10.1ヶ月となっています。
審査請求の手続きは「出願審査請求書」を特許庁に提出することで行います。この様式は特許庁のウェブサイトからダウンロードできます。
特許出願から特許取得までの一般的な流れは以下のようになります:
審査の期間については、審査請求から最初の審査結果(多くの場合は拒絶理由通知)が届くまでの平均期間は約10.1ヶ月(2020年時点)となっています。ただし、技術分野や出願の複雑さによって期間は変動します。
なお、審査の着手状況を知りたい場合は、「審査状況伺書」を特許庁に提出することで確認できます。この問い合わせができるのは、出願人、代理人、情報提供者などの特定の関係者に限られています。
実体審査において、審査官が発明に特許性がないと判断した場合、「拒絶理由通知」が送付されます。拒絶理由としては、新規性や進歩性などの特許要件が認められない(先行技術と同一、または容易に発明できる)というのが典型的です。
拒絶理由通知を受け取った場合、出願人は以下の対応が可能です:
拒絶理由通知では、その根拠となる「引用文献」が示されます。多くの場合は国内外の公開特許公報ですが、学術論文やインターネット上の情報など、様々な文献が引用されることがあります。興味深いことに、漫画「こち亀」が引用文献として参照されたケースもあるそうです。
拒絶理由に適切に対応できれば特許査定を受けられる可能性がありますが、対応しなかったり、対応しても拒絶理由が解消されなかったりした場合は拒絶査定となります。
特許庁における審査の最新トレンドとして、AI関連技術の特許出願増加が挙げられます。2025年1月時点で、日本の特許庁において注目されている主要なトピックの一つがAI関連技術です。
特許庁では、AI関連技術の発展に伴い、進歩性、記載要件及び発明該当性についての判断のポイントを分かりやすく示すため、AI関連技術に関する事例を作成・公表しています。平成29年3月に5事例、平成31年1月に10事例が追加され、令和6年3月にも更新が行われています。
AI関連技術の特許出願では、機械学習、深層学習、自然言語処理などの技術が増加傾向にあります。また、AIを活用したビジネスプロセスの自動化やAI生成物の特許性に関する議論も活発化しています。
特に注目すべき点として、AIが生み出した発明の特許性や、発明者としてのAIの扱いについての議論が進んでいます。これは従来の特許制度の枠組みを超えた新たな課題として、特許庁でも検討が進められています。
また、グリーンテクノロジーや脱炭素技術も重要なトピックとなっており、気候変動対策の一環として、再生可能エネルギーや省エネ技術に関する特許出願も増加しています。
特許庁は審査の効率化と国際的な特許取得を容易にするため、他国の特許庁と連携を進めています。その代表的な取り組みが「特許審査ハイウェイ(PPH)」です。
特許審査ハイウェイとは、ある国で特許可能と判断された出願について、他の参加国でも早期審査を受けられる制度です。これにより、複数国での特許取得が効率化されます。
また、PCT(特許協力条約)制度の活用も推進されています。PCTを利用すると、一つの国際出願で複数の国に同時に出願したのと同じ効果が得られ、各国での審査手続きが効率化されます。
これらの国際連携により、審査の迅速化が図られています。日本の特許庁は、世界的に見ても審査の質と速さのバランスが取れた特許庁として評価されています。
特許出願を検討している企業や個人は、これらの国際的な制度を活用することで、グローバルな知的財産戦略を効率的に展開することができるでしょう。
特許審査ハイウェイ(PPH)の詳細と利用方法についての特許庁公式ページ
特許の出願から権利取得までには様々な費用がかかります。主な費用項目は以下の通りです:
これらの費用は決して安くはありませんが、中小企業や個人発明家、大学などを対象に「特許料等の減免制度」が設けられています。この制度を利用することで、出願料、審査請求料、特許料などが減額または免除される場合があります。
例えば、中小企業の場合、審査請求料や特許料が1/2に軽減されることがあります。また、個人発明家や大学などの場合も、一定の条件を満たせば同様の減免が受けられます。
減免制度を利用するには、減免申請書や証明書類の提出が必要です。詳細は特許庁のウェブサイトで確認するか、特許庁の相談窓口に問い合わせることをお勧めします。
特許料等の減免制度についての詳細情報
費用面での負担を軽減することで、より多くの発明が特許出願・審査請求されることを特許庁は推進しています。
特許出願前に行うべき重要なステップとして、「先行技術調査」があります。これは既に同じような技術が公開されていないかを確認するプロセスです。
先行技術調査が重要な理由は主に二つあります。一つは、既に同じような技術が公開されている場合、新規性がないとして特許を取得できない可能性が高いためです。もう一つは、既に特許権が設定されている技術を無断で使用すると、特許権侵害となる可能性があるためです。
先行技術調査には、特許庁が提供する「J-PlatPat」というデータベースが役立ちます。このツールを使えば、国内外の特許文献を無料で検索できます。
効果的な先行技術調査のポイントは以下の通りです:
先行技術調査で類似技術が見つからなければ、特許取得の可能性は高まります。一方、類似技術が見つかった場合でも、その技術との差異を明確にすることで、特許取得の可能性を探ることができます。
特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)の使い方ガイド
特許出願前の先行技術調査は、時間と費用の無駄を防ぎ、特許取得の可能性を高めるための重要なステップです。特許庁も出願前の先行技術調査を強く推奨しています。