早期審査制度と特許出願の審査期間短縮
早期審査制度の基本
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審査期間の短縮
通常9〜11ヶ月かかる審査が平均3ヶ月以下に短縮
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申請費用
特許庁への申請手数料は無料(弁理士費用は別途発生)
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申請条件
中小企業、実施関連、外国関連など6つの条件のいずれかを満たす必要あり
特許出願の早期審査制度とは、通常の特許出願よりも早く審査を受けることができる制度です。一般的に、特許出願の審査請求から一次審査の通知までは9〜11ヶ月程度かかりますが、早期審査を申請すると平均で3ヶ月以下に短縮されます。これにより、特許権の早期取得が可能となり、ビジネス展開をスピーディに進めることができます。
早期審査制度は、特許庁が一定の要件を満たす出願に対して優先的に審査を行うもので、出願人からの申請に基づいて実施されます。この制度を利用することで、市場での競争力を早期に確保したり、侵害者に対して早期に対処したりすることが可能になります。
早期審査を申請するには「早期審査に関する事情説明書」を特許庁に提出する必要があります。この書類には、早期審査を希望する理由や先行技術との対比説明などを記載します。申請自体に特許庁への追加費用は発生しませんが、弁理士に依頼する場合は別途費用がかかることがあります。
早期審査制度の申請条件と対象となる特許出願
早期審査の申請が可能な特許出願は、以下の条件のいずれかを満たす必要があります:
- 中小企業、個人、大学、公的研究機関等による出願
- 中小企業の定義:業種により異なる従業員数や資本金の基準あり
- 例:製造業の場合は従業員300人以下または資本金3億円以下
- 外国関連出願
- 日本国特許庁以外の特許庁または政府間機関へも出願している特許出願
- PCT国際出願も含まれる
- 実施関連出願
- 出願人または実施許諾を受けた者が既に実施している発明
- または2年以内に実施予定がある発明
- グリーン関連出願
- 省エネルギーやCO2削減など環境負荷低減効果を有する発明
- 震災復興支援関連出願
- アジア拠点化推進法関連出願
- アジア拠点化推進法に基づく研究開発事業計画の成果に関する出願
これらの条件のうち、一つでも該当すれば早期審査の申請が可能です。複数の条件に該当する場合は、手続きの負担が少ない条件を選ぶことが推奨されています。
早期審査制度の申請手続きと費用について
早期審査の申請手続きは比較的シンプルですが、いくつかの重要なステップがあります:
申請手続きの流れ
- 出願審査請求を行う(早期審査申請と同時でも可)
- 「早期審査に関する事情説明書」を作成する
- 特許庁に事情説明書を提出する
事情説明書の主な記載事項
- 【提出日】:事情説明書を提出する日付
- 【事件の表示】:早期審査対象となる出願番号
- 【提出者】:出願人の住所・氏名
- 【早期審査の種別】:「早期審査」と記載
- 【早期審査に関する事情説明】:
- 「事情」:早期審査の対象となる条件を説明
- 「先行技術の開示及び対比説明」:先行技術との違いを説明
費用について
早期審査の申請自体は無料です。特許庁に対して追加の手数料は発生しません。ただし、弁理士に依頼して手続きを行う場合は、弁理士費用が別途発生します。弁理士費用は事務所によって異なりますので、依頼前に確認することをお勧めします。
また、早期審査の申請前に先行技術調査を行う必要があるため、この調査にかかる時間や費用も考慮する必要があります。ただし、外国関連出願の場合で、既に外国特許庁での先行技術調査結果がある場合は、その結果を利用できるため、新たに調査を行う必要はありません。
早期審査制度のメリットとビジネス戦略への活用法
早期審査制度を活用することで、様々なビジネス上のメリットが得られます:
1. 特許権の早期取得
- 通常9〜11ヶ月かかる審査期間が平均3ヶ月以下に短縮
- 早期に権利を確定させることで、市場での優位性を確保
- 競合他社の参入を抑制し、独占的な市場展開が可能に
2. 事業展開の加速
- 特許権が確定していることで、投資家や取引先への信頼性向上
- 製品開発や設備投資の意思決定を早期に行える
- ライセンス契約の早期締結が可能になり、収益化を加速
3. 外国出願戦略の最適化
- 日本での審査結果を早期に得ることで、外国出願の要否を判断できる
- 特許性が低いと判断された場合、外国出願費用の無駄を防げる
- 各国での審査を有利に進めるための参考情報として活用可能
4. 侵害対応の迅速化
- 権利化が早期に完了するため、侵害者に対して早期に警告や訴訟提起が可能
- 模倣品や競合製品の市場参入を早期に阻止できる
ビジネス戦略への活用例
- スタートアップ企業:資金調達前に特許権を確定させ、企業価値を高める
- 製品ライフサイクルの短い業界:市場投入前に特許権を確保し、短期間での収益最大化を図る
- 国際展開を計画している企業:日本での権利化を早め、各国での権利取得を効率的に進める
- 競合が多い技術分野:早期に権利化して先行者利益を確保する
早期審査制度は単なる手続きの短縮ではなく、ビジネス戦略の重要なツールとして活用することで、企業の競争力強化に大きく貢献します。
早期審査制度とスーパー早期審査の違いと選択基準
特許庁では、通常の早期審査制度に加えて、さらに審査期間を短縮する「スーパー早期審査」制度も設けています。両者の違いと選択基準について解説します。
早期審査とスーパー早期審査の比較
項目 |
早期審査 |
スーパー早期審査 |
審査期間 |
申請から平均2〜4ヶ月 |
申請から平均1ヶ月以内 |
申請条件 |
6つの条件のいずれか |
「実施関連出願」かつ「外国関連出願」、またはベンチャー企業による「実施関連出願」 |
手続要件 |
特になし |
申請前4週間以降の全ての手続がオンライン手続であること |
対応期限 |
通常の期間 |
拒絶理由通知から30日以内に応答が必要 |
スーパー早期審査の特徴
スーパー早期審査は、早期審査よりもさらに審査期間を短縮した制度で、申請から1ヶ月以内に最初の審査結果が通知されます。ただし、申請条件が厳しく、「実施関連出願」かつ「外国関連出願」であること、またはベンチャー企業による「実施関連出願」であることが条件となります。
また、スーパー早期審査では、拒絶理由通知に対する応答期限も30日以内と短くなっています。この期限内に応答しない場合は、以後は通常の早期審査として扱われるため注意が必要です。
選択基準
- 緊急性の高さ
- 侵害者が既に存在する場合や、製品発売が迫っている場合はスーパー早期審査が有効
- 比較的余裕がある場合は通常の早期審査で十分
- 条件の適合性
- スーパー早期審査の厳しい条件を満たせない場合は早期審査を選択
- ベンチャー企業は、スーパー早期審査の対象になりやすい
- 対応能力
- 30日以内の迅速な対応が可能な体制があればスーパー早期審査
- 社内決裁に時間がかかる場合は通常の早期審査が安全
- コスト効率
- 弁理士費用が増加する可能性があるため、緊急性とのバランスで判断
スーパー早期審査は、特に緊急性の高いケースや国際展開を急ぐ企業にとって有効な選択肢となります。ただし、条件が厳しく対応も迅速に行う必要があるため、自社の状況に合わせて適切な制度を選択することが重要です。
早期審査制度の注意点と申請が認められないケース
早期審査制度を利用する際には、いくつかの注意点があります。また、申請が認められないケースもあるため、事前に確認しておくことが重要です。
申請が認められないケース
- 条件を満たさない場合
- 中小企業の定義に該当しない(業種ごとの従業員数・資本金基準を超える)
- 外国出願の実績がない(PCT出願も含む)
- 実施や実施予定が証明できない
- グリーン技術としての効果が明確でない
- 手続上の不備がある場合
- 事情説明書の記載が不十分
- 先行技術の開示や対比説明がない、または不十分
- 方式不備がある
- その他
- 出願審査請求がされていない
- 既に審査が進行中である
- 特許出願がみなし取下げとなっている
注意すべき点
- 制度改正への対応
- 知的財産権に関する法律や制度は定期的に改正されるため、最新情報の確認が必要
- 手続方法や様式が変更されている可能性がある
- 先行技術調査の重要性
- 先行技術調査が不十分だと、早期審査の対象外となる可能性がある
- 調査結果の開示と対比説明は具体的かつ明確に記載する必要がある
- 審査結果への対応準備
- 早期審査では審査結果も早く届くため、迅速な対応が求められる
- 拒絶理由通知への対応準備を事前に整えておくことが重要
- 補正の制限
- 審査終了後は請求項の補正ができなくなるため、将来的な補正の可能性を考慮して分割出願を検討する
- 出願から1年以内に査定が確定すると国内優先権主張の期間が短くなる
- スーパー早期審査との混同
- スーパー早期審査は条件が異なるため、どちらの制度を利用するか明確にする
- スーパー早期審査の場合、拒絶理由通知から30日以内に応答しないと通常の早期審査に戻る
早期審査制度を効果的に活用するためには、これらの注意点を理解し、適切な準備を行うことが重要です。不明点がある場合は、専門家である弁理士に相談することをお勧めします。
早期審査制度と優先審査制度の比較分析
特許庁には早期審査制度のほかに「優先審査制度」も存在します。両制度は審査を早める点では共通していますが、適用条件や手続きに違いがあります。ここでは両制度を比較分析し、どのような場合にどちらを選ぶべきかを解説します。
優先審査制度と早期審査制度の比較
項目 |
早期審査制度 |
優先審査制度 |
申請できる人 |
出願人のみ |
出願人または第三者 |
申請条件 |
中小企業、外国関連、実施関連など6条件のいずれか |
公開済みで第三者が実施している、または緊急性を要する出願 |
費用 |
無料 |
有料(特許印紙代が必要) |
先行技術調査 |
必要 |
不要 |
審査期間 |
申請から平均2〜4ヶ月 |
申請から平均2〜3ヶ月 |
優先審査制度の特徴
優先審査制度は、以下のような特徴があります:
- 第三者による申請が可能
- 出願人だけでなく、第三者も申請できる
- 例:他社の出願特許を自社が実施している場合など
- 申請条件が異なる
- 公開済みの特許出願であること
- 出願人以外の者が業として特許出願に係る発明を実施していること
- または特許庁長官が緊急に処理する必要があると認める出願であること
- 費用が発生する
どちらを選ぶべきか
- 早期審査が適している場合
- 中小企業、個人、大学など条件に該当する場合
- 費用を抑えたい場合
- 出願人自身が早期権利化を望む場合
- 優先審査が適している場合
- 公開済みで第三者が無断実施している場合
- 早期審査の条件に該当しない場合
- 第三者として他社の出願の権利範囲を早く確定させたい場合
- 両方の条件を満たす場合