マルチマルチクレームとは、「他の二以上の請求項の記載を択一的に引用する請求項(マルチクレーム)を引用する、他の二以上の請求項の記載を択一的に引用する請求項」を指します。簡単に言えば、複数の請求項を引用するクレームが、さらに複数の請求項を引用している状態です。
具体例を見てみましょう:
この例では、請求項3が「マルチクレーム」となっており、請求項1または2を引用しています。そして請求項4が「マルチマルチクレーム」となっており、請求項1~3(この中にマルチクレームである請求項3を含む)を引用しています。
マルチマルチクレームを使用すると、少ない請求項数で多くのバリエーションをカバーできるというメリットがありましたが、審査の複雑さや国際的な調和の観点から、日本でも制限されることになりました。
日本では長らくマルチマルチクレームが許容されてきましたが、2022年4月1日以降の出願からマルチマルチクレームが制限されることになりました。この制限は特許法施行規則第24条の3第5号の改正によるものです。
制限に至った主な理由は以下の通りです:
この制限は2022年4月1日以降に出願された特許出願および実用新案登録出願に適用されます。ただし、2022年3月31日以前を出願日とする特許出願を親出願とする分割出願については、マルチマルチクレームの制限は適用されません。
マルチマルチクレーム制限に違反した場合、単に形式的な拒絶理由が通知されるだけではなく、以下のような重大な影響があります:
このような厳しい取り扱いにより、マルチマルチクレームを含んだまま審査を受けると、実質的な審査が遅れるだけでなく、補正の自由度も大きく制限されることになります。
そのため、最初から(できれば出願時、遅くとも審査請求時までに)マルチマルチクレームを解消しておくことが強く推奨されます。
マルチマルチクレームの制限に対応するために、以下の具体的な方法が考えられます:
1. マルチクレームへの分解
マルチマルチクレームを複数のマルチクレームに分解する方法です。例えば:
変更前:
変更後:
この方法では請求項数が増えますが、従来と同じ権利範囲をカバーすることができます。
2. シングルクレームへの変更
マルチマルチクレームを複数のシングルクレーム(一つの請求項のみを引用するクレーム)に変更する方法です。
3. 明細書への記載
出願時にマルチマルチクレームを避け、将来の補正の根拠として明細書中に具体的な記載を残しておく方法も有効です。
4. 出願前のチェック体制の強化
マルチマルチクレーム違反を防ぐために、以下のような対策が推奨されます:
マルチマルチクレームに対する各国の対応は異なります。主要国の状況は以下の通りです:
国・地域 | マルチマルチクレームの扱い |
---|---|
日本(2022年4月以降) | × (禁止) |
米国 | × (禁止) |
中国 | × (一部例外あり) |
韓国 | × (禁止) |
台湾 | × (禁止) |
欧州 | ○ (許容) |
PCT | ○ (許容) |
日本と中国、韓国、台湾の違いとして注目すべき点は、これらの国では日本とは異なり、マルチマルチクレームが含まれていても新規性、進歩性、記載要件の審査がなされる点です。日本の改正審査基準は、マルチマルチクレーム禁止の実効性を担保するために、より厳しい取り扱いを定めています。
国際出願(PCT出願)ではマルチマルチクレームが許容されていますが、各国移行段階では各国の規定に従う必要があります。そのため、PCT出願からの各国移行時には、マルチマルチクレームの扱いに注意が必要です。
特に、日本を含む複数国に出願する場合は、最初からマルチマルチクレームを避けた形式で出願することで、各国移行時の手間を省くことができます。
マルチマルチクレーム制限下でも効率的に特許権利化を進めるための戦略を考えてみましょう。
1. 請求項数と費用のバランス
マルチマルチクレームを分解すると請求項数が増え、審査請求料や特許料が増加します。そのため、単に機械的に分解するのではなく、以下のような取捨選択が重要です:
2. 明細書作成時の工夫
出願時から以下のような工夫をすることで、将来の補正や分割出願に備えることができます:
3. 審査請求のタイミング
マルチマルチクレームを含む出願の場合、審査請求前にクレームを整理することが重要です。審査請求時に補正を行い、マルチマルチクレームを解消しておくことで、スムーズな審査進行が期待できます。
4. 分割出願の活用
重要な発明については、マルチマルチクレームを解消した際に権利範囲が狭くなる懸念がある場合、分割出願を活用して別の切り口からの権利化を検討することも有効です。
5. 外国出願との整合性
国際的な出願戦略を考える場合、最初からマルチマルチクレームを使用しない形式でクレームを作成することで、各国での手続きを簡略化できます。特に米国、中国、韓国など主要国への出願を予定している場合は、これらの国の規定に合わせたクレーム作成が効率的です。
以上の戦略を組み合わせることで、マルチマルチクレーム制限下でも効率的な特許権利化が可能になります。重要なのは、出願前からこの制限を意識したクレーム作成と明細書作成を行うことです。
特許庁が提供するマルチマルチクレームのセルフチェックツールも活用しながら、慎重にクレームを作成することをお勧めします。