パラメータ発明の進歩性が認められる判断基準と実務対応

パラメータ発明の進歩性が認められやすい理由とその判断基準について解説します。特許実務者が知っておくべきパラメータ発明の特徴と進歩性の考え方とは?なぜパラメータ発明は通常の発明と比べて進歩性が認められやすいのでしょうか?

パラメータ発明と進歩性

パラメータ発明の進歩性のポイント
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パラメータ自体の新規性

パラメータ自体が先行文献に記載されていないケースが多く、相違点の認定がされやすい

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設計事項とされにくい

パラメータは当業者が実験的に最適化しようと試みる対象とは言い難いため

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数値限定の効果

顕著な効果が示せれば、さらに進歩性が認められやすくなる

パラメータ発明とは何か - 定義と特徴

パラメータ発明とは、物の構造や特性を直接的に表現するのではなく、複数の変数を組み合わせた特有のパラメータを用いて発明を特定する方法です。例えば、「A×B/C」といった独自の数式や、「10≦p/h≦20」のような数値範囲によって物の性質を規定します。

 

パラメータ発明の主な特徴は以下の通りです:

  • 従来にない新たな評価軸を導入している
  • 複数の変数の組み合わせによって特性を表現する
  • 数値範囲によって発明の範囲を限定することが多い
  • 直接的な物の構造ではなく、間接的な特性で発明を特定する

パラメータ発明は、特に材料科学、化学、物理学などの分野で多く見られ、従来技術では評価されていなかった特性に着目することで、新たな技術的価値を創出することができます。

 

パラメータ発明の進歩性判断の基本的な考え方

パラメータ発明の進歩性判断は、通常の発明と比較して特殊な側面があります。特許庁の審査基準では、数値限定発明の進歩性判断について次のように説明しています:
請求項に数値限定を用いて発明を特定しようとする記載がある場合において、主引用発明との相違点がその数値限定のみにあるときは、通常、その請求項に係る発明は進歩性を有していない。実験的に数値範囲を最適化又は好適化することは、通常、当業者の通常の創作能力の発揮といえるからである。」
しかし、パラメータ発明の場合は単なる数値限定とは異なり、パラメータ自体が新規である場合が多いため、進歩性の判断も異なってきます。

 

パラメータ発明の進歩性判断の基本的な流れは以下の通りです:

  1. 本発明の認定
  2. 主引用発明(発明A)の認定
  3. 両者の対比による相違点の抽出
  4. 相違点が他の引用文献に記載されているかの判断
  5. 動機づけまたは設計事項の判断

パラメータ発明の場合、パラメータ自体が先行文献に記載されていないことが多いため、4の段階で「No」となり、設計事項の判断へと進むケースが多くなります。そして、パラメータ自体は当業者が実験的に最適化しようと試みる対象とは言い難いため、設計事項と判断されることも少なくなります。これがパラメータ発明の進歩性が認められやすい理由の一つです。

 

パラメータ発明の進歩性が認められやすい具体的な理由

パラメータ発明の進歩性が認められやすい理由は、主に以下の3点に集約されます:

  1. パラメータ自体の新規性

    パラメータ発明では、そのパラメータ自体が先行技術に記載されていないことが多く、そのため相違点として認定されやすくなります。先行技術に記載されていないパラメータは、当業者が容易に想到できるとは言い難いケースが多いのです。

     

  2. 設計事項とされにくい

    通常の数値限定発明では、数値範囲の最適化・好適化は当業者の通常の創作能力の発揮とされることが多いですが、パラメータ発明の場合、そのパラメータ自体が新規であるため、当業者が実験的に最適化しようと試みる対象とは言い難く、設計事項と判断されにくいという特徴があります。

     

  3. 効果の顕著性の立証が容易

    パラメータ発明では、そのパラメータを採用することによる効果が、先行技術から予測できない顕著なものであることを示しやすい傾向があります。特にパラメータが複数の変数の組み合わせである場合、その効果の予測は困難であることが多く、顕著な効果の立証に有利に働きます。

     

これらの理由から、パラメータ発明は通常の発明と比較して、進歩性が認められやすい傾向にあります。

 

パラメータ発明の進歩性が否定された事例分析

パラメータ発明の進歩性が認められやすい一方で、否定された事例も存在します。代表的な事例として「ランフラットタイヤ事件(平成29年(行ケ)第10058号)」があります。

 

この事件では、タイヤ表面の凹凸部における突部のピッチ(p)と高さ(h)の関係、および溝部の幅(p-w)と突部の幅(w)の関係を特定のパラメータ範囲(「10.0≦p/h≦20.0,かつ,4.0≦(p-w)/w≦39.0」)に限定した発明の進歩性が争われました。

 

裁判所は以下のような判断を示しました:

  1. 当業者は乱流による放熱効果の観点から、これらのパラメータに着目するのは当然である
  2. 引用例には類似のパラメータ(「5≦p/h≦20,かつ,1≦(p-w)/w≦99」)が記載されていた
  3. 本件発明の数値範囲に限定する技術的意義は認められない
  4. 数値を好適化したものにすぎず、当業者が適宜調整する設計事項である

この事例では、「パラメータに着目できた→主引例と副引例の組合せは動機付けあり→数値に顕著な効果なし→数値範囲は設計事項→進歩性なし」という流れで進歩性が否定されています。

 

この事例から学べる教訓は、パラメータ発明であっても、以下の場合には進歩性が否定される可能性が高いということです:

  • パラメータ自体が先行技術から容易に着目できる場合
  • 数値範囲の限定に技術的意義が認められない場合
  • 顕著な効果が示せない場合

パラメータ発明の進歩性を高めるための実務上の対応策

パラメータ発明の進歩性をより確実に認めてもらうための実務上の対応策として、以下のポイントが重要です:

1. パラメータの技術的意義の明確化

パラメータを採用した技術的意義を明細書に明確に記載することが重要です。なぜそのパラメータを用いるのか、従来技術ではなぜそのパラメータに着目しなかったのかを説明することで、パラメータの新規性・進歩性を主張する根拠となります。

 

2. 効果の顕著性の立証

パラメータ発明の進歩性を主張する上で、そのパラメータを採用することによる効果が顕著であることを示すことが非常に重要です。特許庁の審査基準によれば、数値限定発明の進歩性が認められるためには、以下の条件を満たす必要があります:

  • 引用発明の延長線上にはない、異質な効果であること
  • 数値範囲内で顕著な効果を奏すること
  • その効果が出願時の技術水準から当業者が予測できないものであること

これらの条件を満たすことを示すためには、実施例や比較例を豊富に用意し、パラメータの数値範囲内外での効果の違いを明確に示すことが有効です。

 

3. 先行技術調査の徹底

パラメータ発明の場合、そのパラメータ自体が先行技術に記載されているかどうかが重要なポイントとなります。出願前に徹底した先行技術調査を行い、類似のパラメータが記載されていないことを確認することが重要です。

 

4. 複数の請求項の用意

パラメータの数値範囲を段階的に限定した複数の請求項を用意することも有効な戦略です。これにより、広い範囲での権利化が難しい場合でも、より限定された範囲での権利化の可能性を残すことができます。

 

5. 発明の効果を裏付ける実験データの充実

出願時に、パラメータの数値範囲内外での効果の違いを示す実験データを充実させることが重要です。特に、数値範囲の境界付近でのデータを示すことで、その数値範囲に技術的意義があることを立証することができます。

 

これらの対応策を実施することで、パラメータ発明の進歩性がより認められやすくなり、強い特許権の取得につながるでしょう。

 

パラメータ発明における数値限定と効果の関係性

パラメータ発明において、数値限定と効果の関係性は進歩性判断において極めて重要です。特許庁の審査基準では、数値限定発明の進歩性判断において、その効果が以下の条件を全て満たす場合に進歩性が認められるとしています:

  1. 引用発明の延長線上にはない、異質な効果であること
  2. 数値範囲内で顕著な効果を奏すること
  3. その効果が出願時の技術水準から当業者が予測できないものであること

これらの条件を満たすためには、パラメータの数値範囲と効果の関係性を明確に示すことが必要です。

 

臨界的意義の立証

数値限定の臨界的意義を立証することは、パラメータ発明の進歩性を主張する上で非常に有効です。臨界的意義とは、数値範囲の境界付近で効果が急激に変化することを意味します。

 

例えば、あるパラメータが「10≦X≦20」という範囲で限定されている場合、X=9.9とX=10.1、あるいはX=19.9とX=20.1での効果に明確な差があることを示すことで、その数値範囲に臨界的意義があることを立証できます。

 

実施例と比較例の配置

効果の顕著性を示すためには、実施例と比較例の配置が重要です。特に以下のポイントに注意が必要です:

  • 数値範囲の境界付近に実施例と比較例を配置する
  • 数値範囲内では均一に良好な効果が得られることを示す
  • 数値範囲外では効果が低下することを示す

このような実施例と比較例の配置により、数値範囲と効果の関係性を明確に示すことができます。

 

複数のパラメータの相互作用

パラメータ発明では、複数のパラメータの組み合わせによって効果が生じることが多いです。この場合、各パラメータの相互作用によって生じる効果が、個々のパラメータから予測できないものであることを示すことが重要です。

 

例えば、「A×B/C」というパラメータを用いた発明の場合、A、B、Cの個々の効果からは予測できない相乗効果が生じることを示すことで、そのパラメータの技術的意義を立証することができます。

 

グラフや表による視覚的な説明

数値範囲と効果の関係性を明確に示すためには、グラフや表を用いた視覚的な説明が有効です。特に、パラメータの値と効果の関係を示すグラフを用いることで、数値範囲内で効果が顕著であることを直感的に理解させることができます。

 

これらの点に注意して、パラメータの数値限定と効果の関係性を明確に示すことで、パラメータ発明の進歩性がより認められやすくなります。

 

パラメータ発明における新規性と進歩性の関係

パラメータ発明においては、新規性と進歩性の判断が密接に関連しています。パラメータ発明の新規性判断の特徴と、それが進歩性判断にどのように影響するかを理解することが重要です。

 

パラメータ発明の新規性判断

パラメータ発明の新規性判断においては、パラメータ自体が新しいかではなく、パラメータで規定する発明の範囲と従来技術とを対比して判断します。具体的には以下のステップで判断されます:

  1. 本発明の認定
  2. 引用文献から発明Aを認定
  3. 発明Aと本発明とを対比
  4. 相違点がなければ新規性なし、相違点があれば新規性あり

この判断において重要なのは、パラメータ自体が新しいかどうかではなく、そのパラメータで規定される発明の範囲が従来技術と重複するかどうかという点です。

 

新規性から進歩性への流れ

新規性があると判断された場合、次に進歩性の判断に移ります。パラメータ発明の場合、新規性判断で認定された相違点(パラメータ)が他の引用文献に記載されているかどうかが判断されます。

 

パラメータ発明の特徴として、そのパラメータ自体が先行文献に記載されていないことが多いため、この段階で「No」となり、次に動機づけではなく設計事項であるか否かの判断に進むケースが多くなります。

 

進歩性判断の特殊性

パラメータ発明の進歩性判断においては、以下の点が特に重要になります:

  1. パラメータへの着目の容易性

    当業者がそのパラメータに着目することが容易であったかどうかが判断されます。パラメータが従来技術から容易に着目できる場合は、進歩性が否定される可能性が高まります。

     

  2. 数値範囲の臨界的意義

    パラメータの数値範囲に臨界的意義があるかどうかが判断されます。数値範囲内外で効果に明確な差がある場合、進歩性が認められやすくなります。

     

  3. 効果の顕著性

    パラメータを採用することによる効果が、従来技術から予